外傷性肩関節前方 (烏口下) 脱臼の一整復法(2-3)

生 年 月 日 昭和38年2月27日生
開業年月日 平成14年7月22日
開 業 場 所 札幌市中央区北1条西19丁目1-12
卒業年月日 昭和58年3月卒
出 身 校 北海道柔道整復専門学校

笹川 禎弘
(札幌ブロック)

<<はじめに>>

 外傷性肩関節脱臼の中でも殆どが前方脱臼の烏口下脱臼であり、その整復法は教科書 (テキスト) に記載されているものや、多くの先生方によって経験のなかで改良されたたくさんの整復法が紹介されています。

 

 以前、本学会にて前腕を使った整復法が紹介されており、無痛に近く、短時間で比較的容易に整復される利点があると報告がありました。
 症例数が少なく、整復時に筋力の影響が小さい体型の患者に限定はされますが、今回、同様の前腕を使った整復法で肩関節外旋により肩関節烏口下脱臼を整復した症例がありますので、ここに報告し先生方のご意見を頂きたいと思います。

<<整復方法>>

 患者を坐位にし、術者は患側90度正面の位置に立ち、一手で患側手関節部を背側から把持し、肘関節屈曲約90度で保持し、他手の前腕下端部を後方より腋窩に入れます。

 そして患者には数回大きく深呼吸をしてもらい、呼気の際に腋窩に入れている前腕でモーレンハイム窩にある骨頭を外上方へと引き上げると同時に手関節を把持している手で徐々に肘頭部を支点に上腕に外旋をかけながら肘関節の屈曲角度を約120度まで屈曲させると整復されます。

<<症 例 1>>

患 者 26歳男性 宅配業務会社員
既往歴 なし
原 因 荷物を入れた台車の車輪が雪道にて窪みに引っかかり左手で引っ張った際に受傷。
初 検 受傷直後に来院。
左肘関節を屈曲し、前腕を右手で支えるようにして左肩の異常を訴える。
三角筋部の膨隆消失、モーレンハイム窩消失、烏口突起下に骨頭を触知し、左肩関節烏口下脱臼と判断。やせ型の体型なので、前腕を使っての外旋法にて整復される。

<<症 例 2>>

患 者 20歳女性 大学生
既往歴 なし
原 因 バレーボールの試合中、スパイクを打った後、バランスを崩し着地時に右手を衝き受傷。
初 検 受傷30分後に来院。
右肩関節軽度外転位にて肘関節を屈曲し左手で支える状態。
三角筋部の膨隆消失、モーレンハイム窩消失、烏口突起下に骨頭を触知し、右肩関節烏口下脱臼と判断。スポーツ選手ではあるが女性で標準的な体型なので、前腕を使っての外旋法にて整復される。

<<考 察>>

今回の整復法は烏口下脱臼の脱臼肢位に注目しました。

(軽度外転内旋している上腕を内転外旋することによりモーレンハイム窩にある骨頭を関節窩に戻せるのではないか)

 

腋窩に入れている前腕で外上方へと引き上げ、出来る限り骨頭を関節窩縁へ近づけさせ(大胸筋、広背筋の影響がない)肘関節屈曲で上腕二頭筋が弛緩され、さらに肘関節の屈曲角度を増しながら外旋する事により、脇が締まる感覚(内転)が起こり、緊張していた棘下筋・小円筋も弛緩され、またその際、内旋筋である肩甲下筋が緊張し、前面に壁が出来たような状態になり、骨頭が後方へ移動する補助となったのではないかと推測されます。

<<まとめ>>

烏口下脱臼の整復法は牽引法、挙上法、槓杆法、回転法が基本となり、それらが2つ3つと併せられ整復されると考えられますが、問題はどの整復法を選択するかということです。

 

今回の整復法でほぼ無痛に近い状態で整復できる最大の要因は、上腕の可動が非常に小さいことと、牽引を使わないことによるものだと考えます。
しかし、それには筋力の影響が小さい人に限られ、筋力の強い人や、体格の大きい人には牽引法、挙上法、槓杆法が必要となります。

 

また、上腕の可動が小さいことと牽引を使わないことが二次的損傷(神経・血管損傷、バンカート損傷の悪化)を起こさないかは症例数が少なく特定できませんが、今後の課題とし画像診断装置(超音波エコー)を使用し、整復前と整復後の軟部組織(関節唇・筋腱)の状態が解明できればと思います。

<<参考文献>>

  • 最新整形外科学大系:肩関節・肩甲帯(中山書店)
  • 神中整形外科学(南山堂)
  • 現代整骨術全集:下巻(梓川書房)
  • 全国柔道整復学校協会:柔道整復学(南江堂)