当院で継承される肩関節脱臼の整復方法(2-4)

生 年 月 日 昭和41年6月7日生
開業年月日 平成4年12月13日
開 業 場 所 函館市昭和3丁目11番17号
卒業年月日 昭和63年3月卒
出 身 校 東北柔道専門学校

近谷 忠徹
(函館ブロック)

<<はじめに>>

 私は三代続く柔道整復師一家の二男として、函館市内で整骨院を営んでいる。祖父の時代には、函館では数件の『ほねつぎ』として地域に大きく貢献していたと聞く。今回、先代より受け継がれている肩関節前方脱臼(鳥口下脱臼)についての整復方法とHippocrates法やKocher法、Stimson法について比較しながら技術の継承について考察してみた。

<<目 的>>

 脱臼整復は、筋力をよりゼロに近い状態にすることでスムーズにかつ苦痛なく整復できると考えます。
 Hippocrates法Kocher法などでは、周辺組織の二次的損傷を引き起こすだけではなく、患者の苦痛を伴うことが多い。Stimson法は、前述の方法と比較すると二次的損傷、苦痛は少ないが、整復されるまでに時間(10分〜15分)を要する。
 当院において代々伝わる整復方法は、苦痛や周辺組織への二次的損傷を防ぎながら、短時間で整復できる手技の一つである。
 この技術は、柔道の技と牽引法を利用したものであると考え、整復方法を検証してみることとした。

 

① 患者は、患側を上に側臥位とする。

② 術者は、患者をまたぐ体勢を取る。

③ 肩関節外転90°、肘関節屈曲位にて、いわゆる柔道の腕がらみの体勢を取り上肢を固定する。

④ 患者にゆっくりとした呼吸法をリードしながら全身の力を抜き、リラックスできるように指示し、首の力を抜かせ頭部を下方へ落とさせる。

⑤ 術者は肩関節90°〜100°にて保持し、患肢を骨軸方向へゆっくりと牽引することでスムーズに整復される。

⑥ 整復が困難な場合、助手は患者の頭部方向より腋窩に両手で抱え込むように上腕骨を関節窩に整復できるように抑える。

 

この整復方法は、Stimson法を側臥位で重りの牽引ではなく、自分の体の重さと重力を利用したものである。
当院にて整復した2症例について発表する。

<<症 例 1>>

45歳 男性(事務職)

原 因: 自家用車の洗車中に足を滑らせ転倒し、手を着いた際に受傷し来院する。
主 訴: 疼痛著名、拳上不可
所 見:

肩峰の突出、三角筋部の膨隆消失、肩峰下骨頭を肩甲骨関節窩腱縁の前方に触知する。関節運動不可、ばね様固定を確認し整復する。

整復後、整形外科にてレントゲン検査を依頼、骨折及び二次的損傷無く整復される。

<<治 療>>

受傷後〜1週間 アイシング
1週間〜2週間 低周波・ホットパック
2週間後 apprehension test陰性、load and shift test陰性。
Romは健側とほぼ変わらず、経過良好により治療を終了する。

<<症 例 2>>

23歳 女性(アルバイト)

原 因: 自宅内で転倒した際、壁に肩を強打し受傷。
主 訴: 疼痛著名、拳上不可
所 見: 三角筋膨隆消失、上腕骨骨頭を鳥口突起下に確認し整復する。

整復後、整形外科にレントゲン検査を依頼。骨折など二次的損傷なく整復される。

<<治 療>>

受傷後〜1週間 アイシング
1週間〜3週間 低周波・ホットパック
2週間後 apprehension test陰性、load and shift test陰性。
Romは健側とほぼ変わらず、経過良好により治療を終了する。

<<考 察>>

この整復方法は、牽引法を利用している。
自己の体重と重力を利用するため、けん引する力が緩やかに作用すると考える。そのため二次的損傷を防ぎ、苦痛も最小限に抑えることができる。

 

今回の症例は、患者の日常生活において肩関節を酷使するようなスポーツや職業ではなかった為、予後も良好に経過した。

 

当院ではこの整復方法を『近谷式』と呼び、ここで修業し、巣立っていった多数の諸先輩方に継承されている。

 

柔道整復師養成校が多くなる中で、このような技術の継承に対しても私たちの世代が積極的に働きかけていかなければならないと感じる。