腰痛の分類による治療の一考察(3-3)

生 年 月 日 昭和42年5月25日生
開業年月日 平成8年9月11日
開 業 場 所 札幌市豊平区美園9条5丁目3-9
卒業年月日 平成元年3月卒
出 身 校 北海道柔道整復専門学校
 
本吉 善公
(札幌ブロック)

<<はじめに>>

 腰痛は人間が2足歩行を開始はじめてから出現したものといわれています。
現代社会やスポーツにおいても比較的多い疾患と思われる。
中でも筋肉の緊張による腰痛はスポーツの分野では多く見られる疾患と思われる。
今回は腰痛を動きの中で分類しその分類より、治療方法の考察を述べたいと思います。
腰痛で来院する患者は「椅子から立ち上がるときにいたむ」とか「靴下を履くときにいたむ」「腰を反らしたら痛む」などの症状を訴えて来院されます。これらの症状を分類し治療方法を考えてみた。

※分類は日本体育協会アスレティックトレーナー教本より抜粋した。

<<方 法>>

 当院に来院された腰痛の患者でヘルニアなどによる神経根症状のない腰痛を分類し治療を行った。治療としては電気療法と運動療法の組合せで行った。電気治療は干渉波、中周波、微弱電流、運動療法は※ドローインを行った。

 ドローインとは腹筋のインナーマッスルである内腹斜筋を強化することで骨盤と上半身の固定力を強化するものである、「息を吐き出すようにしお腹をへこます」とか「ベルトをさらに緩めるように」などと意識させ骨盤と体幹を安定させる運動である。

 

分類は次のようにした。

 

分類Ⅰ 屈曲型腰痛

 体幹を前屈したときに発症するタイプ。殿筋群やハムストリングスの短縮により体幹の前屈動作での骨盤前傾が制限され、腰椎が代償動作として過度に前屈し、増悪するタイプ。

 靴下を履くときや椅子に座るときに痛むのが特徴である。

分類Ⅱ 伸展型腰痛

 体幹を伸展したときに発症するタイプ。主に腸腰筋や大腿筋膜張筋、四頭筋の股関節屈曲筋群の疲労短縮や過緊張により骨盤が前傾、腰椎前弯が増強し骨盤の後傾動作が制限され、伸展時に増悪するタイプ

 椅子からの立ち上がりに腰が伸びない、痛むなどの症状が多い。

分類Ⅲ 混在型腰痛

 上記屈曲、伸展両者が混在する腰痛。

<<症 例 1>>

23歳、男子大学生 サッカー
受傷日 平成23年1月14日
腰部の軽度の痛みは以前より感じていたが試合の翌日、ズボンを履こうとしたときに疼痛発症。
初検時、体幹前屈位で疼痛、SLR可動域左右60度程度、L4/5間に疼痛
患者腹臥位腰部に干渉波(80〜120Hz)15分、側臥位で臀部〜ハムスト幹部に中周波(テクトロン)5分かけながらストレッチング、座位にて骨盤を補助しながら前屈を何度か繰り返す。その後立位で疼痛動作を確認、前屈位での疼痛は軽減しズボンも履ける状態に回復、3日ほど連日治療を行い疼痛と腰部の緊張を確認し運動療法としてドローインを指導1週間後の再診でも問題なく治癒とした。
原因として股関節の可動域が狭く、骨盤のリズムが悪く腰椎での前傾で代償していたために発症したものと推測される。

<<症 例 2>>

36歳 男性 バスケットボール
受傷日
朝洗顔中、腰部に疼痛。
初検時 腰が伸びない状態で来院。体幹の前屈は可能だが後屈が疼痛増強にて不可能。FNSテストやSLRテストでの神経根症状はない。L2〜4あたりに圧痛があるがL5/S1間に疼痛。
治療は患者が腹臥位を取れず側臥位にて治療、腰部に緊張を取るために干渉波15分、そのままL2〜L4あたりから四頭筋に通電しながら腸腰筋、四頭筋のストレッチングで疼痛動作を確認50%ほど減痛するものの体幹後屈時に疼痛残存、腹部の筋収縮が少なく反った状態のためドローインにて腹圧のかけ方を指導、後屈時に腹圧を意識させることで疼痛動作での痛みは改善、腹臥位での起き上がりも問題なく行えた。
原因として腸腰筋と四頭筋の緊張により腰椎の前弯、骨盤の前傾が強くなり腰椎への負荷が強くなり腰痛を発症したと思われる。股関節の伸展の可動域も狭いのが骨盤リズムを悪化させていると思われる。治療期間約2週間

<<症 例 3>>

15歳 中学生女子 競技 バドミントン
受傷日 平成23年3月20日 
2月下旬より腰部に痛みがあったが運動中は気にならないので放置していたらしい。
3月20日朝、ベッドからの起き上がりが辛く、歩行時での疼痛があり、来院した。
初険時 体幹前屈、後屈、回旋で疼痛あり、SLRでの可動域は100度と股関節柔軟性はあるが立位で側方より前屈、後屈の姿勢を確認したところ骨盤の可動が少なく腰椎で前傾していた。
腰部の筋肉に圧痛、緊張感があり背部全体に疼痛があった。
治療は患部に干渉波、背部にホットパック、伸展時のストレッチングしながら中周波、ドローインを行ったところ屈曲が少し楽になったとのこと。翌日、前日同様の疼痛だが少し軽減した感じがあるとのこと。前回と同様の治療を行う。ドローインは前回よりもスムーズな押し付けが出来る。腹部にテクトロンをかけた状態でドローインの指導をしながら伸展してもらい疼痛を確認したところ、疼痛が出なくなった、しかし走行時の疼痛は残存していた。2日後来院、歩行時や朝の起き上がりの疼痛は軽減し、電気治療後の屈曲、伸展は問題なく行えるようになった。体幹を強化するためにボディーリフトを追加し行ってもらった。3回ほど同じメニューで経過観察したところ疼痛は完全に無くなりランニングでの痛みも消失した。1週間ほど治療をあけ、自宅でドローインとボディーリフトは行ってもらった。1週間後ランニングやダッシュを行えるようなのでバドミントンの基本動作を行って痛みが無ければ復帰とした。

 原因として基本的に伸展型の腰痛と思われる。回旋した時に腹圧がかからず骨盤が前傾するため回旋時に疼痛が出現すると思われる。

屈 曲 型 治 療

伸 展 型 治 療

<<結 果>>

 腰痛の評価とその分類し電気治療とストレッチングを組み合わせることでリラックスした状態で筋肉を伸張させ疼痛の軽減することが可能と思える。また、腹圧を高めることで骨盤リズムを改善し腰痛の改善も可能であることが確認できたと思われる。

 平成22年より平成23年3月までの1年間、当院の分類に適合する腰痛患者をデータ化してみた。

伸展型腰痛  42名 屈曲型腰痛 62名
混在型腰痛 8名 (再診含む)
通院日数  1週間以内43名 2週間以内33名
3週間以内26名 4週間以上10名

<<総 括>>

 今回は神経根症状のない筋肉の柔軟性の欠如による腰痛や骨盤リズムの不調を対象として行ったが、今後は骨や軟部組織の変性に対する今回の治療の効果性を確かめてみたいと思っております。
また今回発表した考察の意見などを先生方からいただければ幸いです。

<<参考文献>>

  1. アスレティックトレーナー教本 日本体育協会
  2. ファンクショナルトレーニング Michael Boyle著  中村千秋監訳
  3. Sports medicine  ㈲ブックハウスHD