股関節可動制限に対する電気治療の一考察(3-4)

生 年 月 日 昭和50年10月2日生
開業年月日 平成16年6月24日
開 業 場 所 札幌市西区発寒9条13丁目
卒業年月日 平成11年3月卒
出 身 校 北海道柔道整復専門学校
 
進藤 大輔
(札幌ブロック)

<<はじめに>>

 股関節の運動学的異常は主に筋機能異常に起因して多面的に出現する。その原因は、主に骨盤帯の前方と後方に大別される1)。

 前方の問題として、鼠径部の筋、腱そして鼠径靱帯などの筋過緊張、滑走不全に起因して生じる股関節の開排・伸展制限であり、鼠径部周辺の痛みとの関連性が推測される。
 
 後方の問題は、股関節の屈曲・内転制限があり、大腿骨大転子周囲の拘縮を含む筋過緊張、滑走不全を特徴とする。また、それらに付随する坐骨結節周囲の筋機能異常が考えられる。
 
 今回、電気刺激による股関節可動域制限の改善を目的に、徒手検査によるポイントの決定2)、関連ポイントを含む電極配置の組み合わせと電流密度の選択、刺激強度に留意し電気刺激を行い、関節可動域の改善と鎮痛効果が得られたので報告する。

<<方 法>>

 電気刺激ポイントの決定は徒手検査により決定した。

  1. 仰臥位、股関節伸展と下腿下垂位による大腿部の筋緊張の確認。
  2. 股関節90度屈曲からの内転を行った。
  3. 股関節の最大屈曲により確認した。
  4. 股関節の屈曲・外転・外旋を行った。別途、同肢位による坐骨結節内側の圧痛を確認した。
  5. 股関節伸展挙上(SLR)を行い両下肢の角度を比較した。
  6. 側臥位による、股関節屈曲・外転、膝関節屈曲位からの内転可動域の確認を行った。別途、同肢位による坐骨結節外側の圧痛を確認した。

 以上、徒手検査による結果をもとに電気刺激ポイントを選択した。下腿部の決定は、膝関節の可動性を比較した。電極貼付は、筋過緊張、滑走不全の改善を目的とし、確認したポイントを組み合わせ使用した。

<<結 果>>

徒手検査による電極配置ポイントは、

  1. 鼠径靱帯上部は、腸腰筋)、また、鼠径靱帯下部は外側広筋の筋緊張を確認した。
  2. 中殿筋(外転筋群)の筋短縮を確認した。
  3. 大殿筋の伸張による股関節屈曲を確認した。
  4. 長内転筋(大内転筋)の筋短縮を確認した。また、同肢位にて坐骨結節内側の圧痛の有無を確認した。
  5. 仰臥位で患者の片脚を痛みが出るか90度に達するまで持ち上げ放散痛などの有無を確認した。
  6. 側臥位での股関節軽度屈曲・外転、膝関節屈曲位から最大内転まで可動域を確認した。

最大内転までの可動域の減少は、外旋筋の短縮が伺われた。最大内転より中間位まで他動による大転子部の運動で滑走不全が見られた場合、外転筋群をポイントとした。

 

 以上、徒手検査の確認により電極貼付部位とした。電極貼付の組み合わせでは、髄節と皮膚分節領域、筋節領域)を考慮した。髄節に対し皮膚分節領域と筋節領域を考慮し電極を設置したことで、電気刺激を髄節と筋や神経線維に入力され、適刺激となり関節可動域の改善、鎮痛効果が即時的効果として得られた。

<<考 察>>

 中周波電気治療器の使用は、電極配置(組み合わせ)と電流密度)を注視した。とくに、電極の距離を離して貼付したほうがより深層を通り、刺激強度を抑えることで、対象としない筋の反応を誘発せず、かつ、神経興奮および深層の筋の効率よい刺激である感覚閾値程度を必要とした。
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しかしながら、ゲートコントロール理論のように、疼痛閾値よりも強い刺激を与えることも痛みのコントロールには必要であり、単純な電極貼付法だけでは、即時的効果を得ることは困難である。そこで機器や波形特性にも依存するが、電極(パット)の大きさを変更することで、電流密度をコントロールし、電気刺激ポイントを術者が選択可能となり、より結果を得られると考えられた。
 
 今回は、対象筋を徒手検査)で限定する手法を得ていることから対象筋以外の反応を得ないようにする目的で刺激強度を感覚閾値程度とした。

 以上の電気治療器の使用方法に基づき、股関節前面部に存在したポイントへの電気刺激は、鼠径部周辺の除痛と開排・伸展制限、股関節後面部は、屈曲・内転可動域の改善が得られた。また、大転子周囲の筋短縮やオーバーユースを含む滑走不全と関係の深い、外旋筋群や内旋筋ポイントへの伸張効果の取得につながった。

<<まとめ>>

 徒手検査による筋硬結・過緊張の有無、オーバーユースを含む滑走不全の確認を行った。特に、股関節前面と後面、合わせて5つの治療ポイントが挙げられたが、2ポイントを抽出し筋腱移行部に対して伸張性・筋内循環の改善、発痛物質の除去を行い、その収縮に伴う結合組織の粘弾性の低下を狙った。股関節周囲の過剰緊張の改善を目的に治療ポイントの組み合わせを行い、2ch/4ポイントの電極配置と刺激パラメーターによる安定した電気刺激効果を目指した。
今後も電気治療器を有効に使用するために、個々の症例に応じた刺激条件の設定なども含め更なる検証を行いたい。

<<引用文献>>

  1. 蒲田 和芳:スポーツ外傷の症候群としての捉え方10.股関節 鼠径部拘縮症候群.Sports medicine 2002 No39 pp44-46 No40 pp43-46 No41 pp42-44 Book House HD
  2. 小林 考誌:触圧覚刺激法 理学療法ハンドブック「改訂第3版」第2巻 治療アプローチ pp250 共同医書出版社 2000
  3. F. H. マティーニ M. J. ティモンズ M. P. マッキンリ 監訳 井上 貴央:カラー人体解剖学第11章筋系:付属肢筋群pp240-242 西村書店 2004
  4. 奈良勲、黒沢和生、竹井仁 編集:系統別・治療手技の展開 改訂第2版(2007年4月16日 共同医書出版社)p6-7
  5. 鈴木重行編集:ID触診術-Individual Muscle Palpation-pp118, 122-127, 140-144, 150, 160-162, 168三輪書店2005
  6. ケンダルン、マクレアリー、プロバンス 監訳 栢森 良二:筋:機能とテスト―姿勢と痛み― 筋長テストとストレッチpp34-43 56-59 西村書店 2006
  7. ウィリアムE.プレンティス 監修 石田 肇:ベッドサイドの物理療法 電流刺激pp56. 63, 66 医道の日本社「第3版」2000
  8. 鈴木 重行編者:IDストレッチング 第3章IDストレッチングとはpp16, 19-20 三輪書店2000