札幌医科大学 医学部 細胞生理学講座 教 授 當 瀬 規 嗣 先 生 |
今日は、生きるしくみについて生理学的見地から健康について考えてみようと思います。
■ヒトの細胞は60兆個の細胞でできている
『人の細胞は約60兆個でできていますが人によって多少違い、数は細胞の大きさから推定したものです。
人の体は多くの細胞からできている集合体ですが、不思議なことに1個の細胞でできている生物も沢山おり、これを単細胞生物といいます。
これはこれでとても優秀な細胞といえます。プランクトンという生物は単細胞生物で、人間とどう違うかというと、移動したり、消化吸収、排泄したりすることを細胞1個で行うところです。これを人間は、それぞれ専門の細胞が行います。それぞれの細胞は、1つのことしかできないのです。それがつなぎ合わされて、忠実に仕事をやっています。
単細胞生物は万能選手ですが、人の体の中の細胞は地味ですが与えられた仕事しかやらない、いわば、1個1個が職人の集団です。この頑固な自分のことしか考えていないような細胞の集団をどうやってうまくまとめていくのかが、実は、人間の体の大きなひとつのポイントになります。
↑(図;人体の様々な細胞)
左上=赤血球
左下=血管(平滑筋;血管の膨張・収縮を決める)
右上=神経細胞(原図はネズミの脳、人間も似ている)
右下=肝臓の細胞
人間の細胞は血管、脳、神経、肝臓すべて形が違います。
これらの細胞をひとつにまとめるために、人間のしくみとしては、2つのシステムができています。
ひとつは神経のしくみです。
神経のしくみは、脳から細胞に向かって電話の電線のように伸びた神経細胞を通して命令が下されます。伝達は早いのですが、いちいち沢山の細胞に連絡しなくてはならないところに問題があります。
もうひとつはホルモンのしくみです。
ホルモンは、仕事の分担があらかじめきめられており、いっぺんにばらまかれると受け取った細胞がその役割を一生懸命果たそうとします。ホルモンが出ると一斉に指示されたようになりますので、同時に同じ方向を向くことで、体が成長したり成熟したり、「内分泌」の働きが人間の人生の設計図を描けるしくみになっているといえるのです。
一見バラバラに見える人間の体は、この2つの大きなしくみで統一されており、人間が毎日体を動かすことはすごいことだと思います。
ところで、人の細胞は、小さく壊れやすいのです。生きていれば1ヶ月たっても人の体は変わらないのですが、何らかの原因で死んでしまったとすると1ヶ月もたつと、人間の体は白骨化してしまいます。
生きていると体は維持されますが、死んでしまうと体は維持されず朽ちてしまします。なぜかというと、人間の体は「代謝」がないと細胞が生きていけないからです。
細胞は栄養を摂って燃やし、そのためには酸素が必要で、老廃物や二酸化炭素を出さなければなりません。
細胞はエネルギーを使って体を維持して、又働きながら修復もしています。細胞は壊れやすい物ですからエネルギーを使って常に修理を行っています。自分の活動をする傍、一生懸命修理もしています。
最近問題になっている放射線ですが、放射線を細胞に浴びせると遺伝子が少し壊れたりすることがありますが、大丈夫です。なぜ少し壊れた位では大丈夫かというと、遺伝子が一生懸命に細胞を治しているからです。放射線が多すぎる等、壊れるのと治すバランスが狂ってくると、いろいろな障害が起きてくるしくみになっています。例えば、病院でレントゲン写真を撮っても大丈夫なのは、遺伝子が細胞を常に治しているからです。
今、この瞬間にも体の中の細胞は自分の細胞を治そうとてしており、それにはエネルギーが必要です。たとえ岩石でもそのうち崩れて無くなってしまうように、物はだんだん壊れていくのが宇宙の原理だといわれています。
砂が石になることも無いわではありませんが、大抵、石はだんだん崩れていくのが常です。細胞が、「自分の存在を自分の努力で維持し続ける」「体が体として維持できる」という特徴的な活動を、生物学で恒常性の維持、「ホメオスターシス」と言います。
細胞が生存するためには栄養と水分と酸素、そして修理する時間が必要です。このとき、排気ガスである二酸化炭素やゴミ(老廃物)が出てきますので、外へ出さなければなりません。このように恒常性を維持することで我々は存在していられるのです。
これを普段の生活に置き換えて見てみると栄養、水分、酸素の補給を行い、その後、細胞を修理するのに、眠ったり、休息したりすることが必要になります。
また、出たゴミを排出するのは当然、排尿と排便ということになります。
この3つを解りやすい言葉で「食う、寝る、出す」といいます。
これは我々人間が生きていくために非常に大事なことだということが私の専門である細胞生理学の立場からの結論になります。
■ 食事の重要性(三度の食事の意味)
そこで、これからの「食う、寝る、出す」の3つの話しをいたします。
まず、食べ物の話ですが、食事の習慣について考えてみようと思います。
最近問題になっているのは、3度の食事をちゃんと食べることにどれくらいの意味があるのかということで、
①細胞が生存するためにはエネルギーと、
②それを修理するための材料が必要です。
そのために栄養をとるわけですが、栄養素には基本的に3つの役割があります。
①エネルギーをとりだす燃料としての役割と、
②細胞、すなわち体を作るための建築資材としての役割、
③その作業を円滑に行うための調整のための役割があります。
細胞は栄養素を取り入れなければなりませんが、多くの食べ物は細胞より大きいため、細胞に入れられる位の大きさにしなければなりません。細胞に入れられる大きさまで持って行くこと、それが「消化」ですが、非常に手間がかかります。
図のように、要領の良いやつが来て横取りする可能性が極めて高いわけです。これだと生存競争にまけてしまうので、人間とか哺乳類は、逃げてって、どっか自分の安心した所で食事しようとする方法を考えたんです。
消化に時間がかかるので、とりあえず体のど真中に食べ物を入れてしまえと、(図では)怒ってますが、少なくとも食べ物を確保して後は走って逃げれば何とかなるだとろうと言うわけです。
人間や、特に哺乳類は食物を確保し生存競争に勝ち残るために、とりあえず体に食べ物を入れて蓄えるということを行います。野性の動物ならば食物を手にしたら、自分が安全な場所へ移動しそこで食事しようとするはずです。
つまり、とりあえず確保したりお腹の中に収めてしまったりしてから、ゆっくり吸収しようというわけです。
生物は体の周りに常に食べ物があるわけではないため、食べられない時期が来ることに備え、食べられる時に食べるのです。さもなければ食べ続けなければなりません。食べられる時にたくさん食べた物を蓄えておくという大事な役割を持っているのが、胃です。
食べ物を食べると胃はどんどん大きくなってくる性質を持っており、これを「受容弛緩」といいます。他の消化管では食べ物が入って来て広がって大きくなるという反応は起きません。
最近、テレビでたまに出ている大食い選手権の選手達は、この「受容弛緩」の反応が物凄く大きいということがわかっています。胃袋が、お腹の周りにまで広がってしまうので、幾らでも食べ物を突っ込むことが出来るという状態になっているのです。
つまり、食べ物を胃に貯めるというのが重要です。そこから食べた物を、少しずつ腸の方に送るということをしています。栄養を吸収するのは、腸です。胃は栄養の吸収を一切しない場所であり、唯一、吸収するのはアルコールだけです。実は、お酒は体中どこに塗っても吸収します。別に胃でなければならないという理由も無いんで、酔っ払うことは可能なんです。楽しくはありませんが・・・
腸は消化吸収するために細く出来ているせいもあり、大量の食べ物送るとストライキを起こしてしまいます。すると、せっかく食べた中身を出してしまう。つまり、下痢を起こしてしまいます。ですから、食べ物を少しずつ送らなくてはうまく消化吸収できないわけです。
腸が消化吸収しているのを終わりかけた頃に、また胃から食べ物を送るというように調整をする必要があり、そのためにも、胃が必要です。ですから、手術で胃を取ってしまった人は、大量に食べるとお腹の調子が悪くなってしまいます。ですから、「食べ物を少しずつ、一日5回か6回に分けて食べて下さい」と指導されます。
大量に吸収した栄養は、すぐに全て使われるわけではありません。余分なエネルギー、栄養は体のどこかに貯められ、ご飯を食べていない時に使われます。貯めている形は、例えば、肝臓でグリコーゲンにしたり、脂肪組織にしたりして貯めたりします。
ですから、人間の体は、ご飯を食べて栄養を吸収している時期と、お腹が空っぽの時期とでは体の中での反応が全く違うことになります。
生理学ではこれを「吸収期」と「空腹期」といい、この2つが交互に訪れなければ、体のバランスがうまく取れなくなります。
この「空腹期」と「吸収期」の体全体の動きをうまく切り替えて調整するために、重要なのが自律神経です。この神経は、元々内臓の働きを全般的に調整する重要な神経で、交感神経と副交感神経の2系統に分かれています。
ご飯を食べると副交感神経が働いて、栄養の吸収と吸収したエネルギーを貯蔵するという働きをします。お腹が減った時には交感神経が働いて、消化管から来ないエネルギーのかわりに貯めていたエネルギーを動員して耐えしのぐということになるわけです。この2つの神経が上手に働いている必要があるのです。
この交感神経と副交感神経は対照的な働きを持っており、交感神経は昼間に良く働く神経だといわれています。
一生懸命頑張って何か仕事をしている時に交感神経が働きますから、食べ物を食べるということにあまり関りません。その代わり、貯めていたエネルギーを使うように働きます。
副交感神経は、体がリラックスしたり、精神が緩やかな時に良く働くといわれ、次に体を動かす時に備え、ご飯を食べエネルギーを蓄えることをしようとするわけです。すから、食事を取ることは自律神経を自動的にチェンジするということになります。
食事を1日3回食べることで、3交代の人間の重要なリズムが作られるといわれています。
1日2食にすると体のリズムと合わず、調子が狂ってしまいます。例えば、一日で同じ量の食べ物を食べたとし、3食で食べたのと2食で食べた人を比べると、2食で食べた人は確実に太るといわれています。
つまり、朝食を抜くと食べ物が最小限しか得られなかったので、その最小限しか得られなかった食べ物を最大限に活用するために、体のしくみを整えようとするわけです。
ですから、食べられる時に食べて、食べられない時に耐え忍ぶと言うふうに体をチェンジするようにできています。このように、食事のリズムが狂うというのは、生活リズムも狂うということになるのです。
■睡眠の意義
次に睡眠について考えてみようと思います。
現代人の睡眠のことが非常に問題になっていますが、基本的に何が大事なのかというと、睡眠は量でなく質が大切です。
量とは時間で、「何時間眠らなければいけない」と硬く考えている人が多いのですが、本当はあまり正しくありません。
人は何で眠るのかというと、いろいろな研究データからはっきりしているのは、人間が寝不足だけで死ぬことはないのです。
実際に眠らない実験が行われていますが、最長の記録は11日で、その人は実験が終わったあと丸1日眠り、次の日は半日寝て、その次の日は普通に眠り、その後は元気でした。つまり、「眠れないから死ぬのではいか」と不安になる必要はないということです。
体を休めるだけならば、布団をかぶって横になり目を開けていても十分休息になります。それでもやはり、眠らないと調子が悪いのは事実です。
なぜかというと、睡眠は脳を休息するために必要だからです。
眠らないと集中力欠如、イライラ、倦怠感などの症状が出現します。実は、この症状は精神症状、つまり、脳の調子が悪いため出現し、これに伴って出てくる症状に「頭痛」と「めまい」があります。さらに、11日間眠なかった人たちは、幻聴、幻覚などかなり深刻な症状が出る可能性もありますが、それでも死ぬことはありません。睡眠は、脳を休ませるためにあるしくみなのです。
では、脳を休めるしくみについて分析すると、睡眠は大きく2つの睡眠を組み合わせた形で行われます。
大半の時間は「徐波睡眠(ノンレム睡眠)」で、脳波ではゆっくりとした波(徐波)が多く見られ、脳の活動がとても低下している状態で眠っています。
この時、心拍数は少なく、血圧は下がり、呼吸は安定しています。外から見るとすやすやと眠っている状態です。
もうひとつが「レム睡眠」で、この時に不思議なことが起きます。外見上「Rapid Eye Movement(REM)」という「急速眼球運動」がおこります。赤ちゃんなどは瞼にまだ力がないので瞼が半開きで眠っていることがあり、眼球がグイグイと動いているのを確認することができます。
このときの脳波を見ると、脳が活動している様に見えます。このとき、活発に動くため夢を見ていると考えられており、そのとき、血圧や心拍数や呼吸も変動します。いままで、静かに眠っていたのに急に呼吸が速くなったり遅くなったりもします。しかし、筋肉の緊張は完全に取れているため、体全体はあまり動かさないこの状態を、「レム睡眠」といいます。
上図:脳波波形(上から)
① 目が覚めているときの脳波
② だんだん眠りに入るところ
③ しだいに、振れの大きい大雑把な波が出てくる
④ かなり深い眠りの脳波
⑤ 一番深い眠りの状態(Stage4)大きくゆっくりした波
⑥ 「レム睡眠」 眠りかけの脳波に似ている
人は「レム睡眠」と「徐波睡眠」を繰り返しており、脳波を測定することでわかってきました。目が覚めているときの脳波は一定の細かい振れ幅が現れますが、だんだん眠りに入ると振れが大きくて大雑把な波が出てきます。
一番深く眠ったStage4の状態ではとても大きな振れのゆっくりした波が現れます。ところが、レム睡眠になると、眠りかけか、目が覚めている脳波に近く、脳波だけを見ていると目が覚めていると思うほどですが、本人を見るとすっかり眠っている状態なのです。
睡眠にはこのような状態が必要で、そのときに脳の中では眠る前に脳にたまっていた色々な経験や記憶を取捨選択し調整しているようで、その一部が夢として見えることが多いようです。
この調節がうまくいかないと、ぐっすり眠った感覚を得られないようです。
全く何も考えないでぐっすり眠っている「徐波睡眠」と、夢を見ている「レム睡眠」とが大体1晩の間に3回から6回ぐらい交互に訪れるというのが普通の睡眠サイクルであると考えて下さい。
夢はよく話が飛びますが、この睡眠サイクルのせいだという説もあります。
実際に具体的な睡眠サイクルを年齢別で見てみると、子供のころは徐波睡眠時間がものすごく長いことがわかります。
大人になるにつれ「徐波睡眠」の深さが浅くなり、「レム睡眠」の時間が長くなるという傾向があります。
また、青年のころまでは目が覚めたという状態は一晩に1回くらいは出てきますが、中高年になると結構目が覚める傾向にありますが、これは普通のことなのです。
昔、睡眠薬と呼ばれる薬を使っていましたが、眠らせることは良くできるのですが、レム睡眠も抑制してしまい何時間寝ても徐波睡眠だけという状態のため、目が覚めた時にぜんぜん寝た気がしないのです。起床時に頭が重くて、「宿酔感」という症状も出て、全然さわやかではないのです。
ですから、最近はもっと弱い薬を使ってレム睡眠が出るようにしているため、飲んで目が覚めたときに、「ちゃんと眠たなぁ」という気がするようになっています。
このレム睡眠があるかどうかというのが、実は、脳の休息に大変関係があることがわかってきたのです。
さらに、睡眠にはいろいろなホルモンが関わっています。
夜眠るためにはある一定のリズムが必要で、眠る寸前に「メラトニン」というホルモンが出てくるのが非常に大事です。
人間の体の中には生物時計といって、1日を勘定する時計があるのですが、その時計の命令で「メラトニン」が出てきます。これによって睡眠がすんなりと起こり、1日の生活を規則正しく過ごすことができます。
逆に、睡眠をとると出てくるホルモンがあります。それが「成長ホルモン」と「コルチゾール」です。
体を作る成長ホルモンは寝ている間によく出るため、これが「寝る子は育つ」といわれる所以です。これは大人でも出ており、体を修理するために必要になります。ですから、きちんと寝てこのホルモンを出すのは体の修理のためにも必要になります。
さらに、「コルチゾール」は体を使うためのエネルギー体制を確立するものですが、これが明け方に出て次の日の準備を整えるという大事なもののため、睡眠をきちんと取らないと次の日に活動ができないというしくみになっているのです。
また、そのリズムを取るためには目に入ってくる光が大切です。
瞼を閉じて、映像は無くても明るさ暗さは分かります。つまり、映像と明るい暗いという情報は、実は、別な情報であるということです。
目から入ってくる映像の情報は、通常の視神経を通って視覚の中枢へ行き、ものが見えることになるわけですが、光の情報の一部は生物時計のほうに入って、「メラトニン」のようなホルモンのリズムを作っているのです。
ですから、あたりが明るいか暗いかという情報は大変大事だということになります。
つまり、瞼を閉じても、眠っていても人間は光を感じているということです。それで辺りが明るくなると自然と目が覚めるようにできているのです。ですから、寝室のカーテンを厚くしたり、遮光カーテンにしたりすることは良くありません。
朝になっても真っ暗なままで、目が覚めないということがおきます。ですから、部屋に東向きの窓のある部屋で眠り、薄いカーテンにしておき、朝の光で自然に目が覚めるようにすることが理想的です。
では、実際に何時間くらい眠れば良いのかと言うと、NHKが調べた年代別睡眠時間調査によると、6.5〜7時間弱が平均の睡眠時間で、子供の頃は長く、年を取ると少なくなります。40〜50代の人が一番寝ていませんが、休日になると長くなり7時間位になることから、本来はこの位寝るのが理想的だと思われます。
「8時間睡眠」という言葉が一人歩きしていますが、そんなことなくアメリカの大学の研究で、アメリカの男性48万人と女性の68万人の睡眠習慣を6年間調査し、何時間寝ていたかを聞き、その間に病気や事故、その他死因を問わず、死亡率を調査したところ、7時間くらい眠る人達が一番低かったのです。
8時間眠る人の方が高く9時間10時間になるともっと高くなります。逆に6時間、5時間、4時間しか寝ない人達は、8時間寝ている人達と死亡率がほとんど変わりません。
また、それぞれの人にあった睡眠時間というのもあるようで、短い人は短くても平気で、長い人は長く寝ないといけない人もいるようですから、無理して他の人の睡眠時間にわせて寝る必要は全く無いというわけです。
5〜6時間で問題ないんであれば、大抵の人の眠れないと言う悩みは解消するはずです。
夜中によく目が覚めると悩む人がいますが、夢を売ることが商売と公言するウォルト・ディズニー®が一晩でどれくらい目が覚めるかという調査を行ったところ、イギリス人は、2.3回、日本人でも1.1回目が覚めています。
夜中に目が覚めてがっかりする必要は無く、ただ目が覚めたかと思えば良いだけで「ああ眠れなかった」と気に病む必要はありません。
もう1つ大事なのは、床についてからどれくらいで眠れるかと言うデータで、平均20分位は眠れないのが普通なのです。
つまり、我々が思い込んでいた睡眠の習慣には意外に多くの誤りがあり、こうしなければいけないと思っていたことが違うことなんだと気付くと思います。
全体的に見て、早寝早起きするに越したことはなく、長時間寝る必要もありません。また、途中で目が覚めてもそんなに気にする必要は無いということです。
いちばんの問題は、「眠れない」ということを気に病むことが一番良くないのです。
もちろん、慢性の睡眠不足と言う病気もありますが、その状態で体の調子が悪くならない人は、心配する必要はありません。
逆に、長時間寝ていよういとも、よく寝た気がしないと思っている人達の方が、よほど事態は深刻であることが多く、体の調子がどうかということの方を、むしろ優先してみるべきだと思います。
■出すことは大事
次に、「出す」には、尿と便の2つがあります。
尿が出ないと人は死にます。どれ位出ないと死ぬかというと24時間出なければ確実に死にます。
なぜそうなるのかというと、尿を作る装置のことを「腎臓」と言います。「腎臓」はお腹の真後ろの左右にあります。ポイントは、太い血管が直接血液を「腎臓」に送り込んで、そこから血液は「糸球体」の中の小さな血管に入って行きます。この血管を通る血液からゴミや老廃物を取り出します。ゴミである尿を細い管を通しながら色々細工をして、最終的におしっこという形で「膀胱」の方へ送ります。
つまり、「腎臓」は血液からゴミを取り除く装置だと言う事です。
人間の体は、もともと塩水でできています。細胞の中も外も塩水でできており、体の約70%を占めます。
これは、もともと生物が海から上がって来たからだといわれています。細胞が活動すると細胞の外側の液はどんどん汚れていきますから、このゴミを出さないと細胞は1日で死んでしまいます。
有名なゴミとして尿素、尿酸、硫酸などがあります。これを、血液がゴミ回収車の様に「腎臓」というゴミ処理工場に運びます。
出てきたゴミは本当なら固体か煙とかにして出したいわけですが、血液という液体の中に溶ける物質のため水と一緒に溶かして出す、つまり尿にして出すしかないのです。
しかし、ゴミだけ出すのは難しいため、一度必要な栄養素も血管の外に出し、後から必要なものだけを回収するのです。
どういう風にするかと言うと、子供が、おもちゃ箱に頭を突っ込んで「もぞもぞ」やるんですけど、これだと、いつまで続けても自分の必要は物が見つかるとは限らないわけです。
そこで、一度お母さんに怒られるのを覚悟の上で、おもちゃ箱をひっくり返して、その中から必要な物を取り出し、残りをまた、おもちゃ箱に片付けると言う事をすれば、かなり効率良く出来るだろうということです。
だから、おしっこの場合も、栄養もゴミも取りあえず一緒に血管の外に出してしまって、そこから、必要な物だけ回収するようにしたわけです。
つまり、「糸球体」の所からゴミも栄養も一度全部出すわけです。必要なもの吸収をするための細い管を「尿細管」といいますが、そこを通る間に栄養等必要なものはどんどん回収して、のこりをゴミとしてすてるとういう方法とるわけです。
この方法の利点は、ゴミの正体を知らなくていいということで、どの様なものでも栄養以外は全部ゴミとするかとができますから、薬等も含め不要な物質が人間の体に入ってきても、ここから出ていくということになります。
この方法は、非常に合理的な方法といえますが、この時に一緒に水も出さざるを得ません。
「糸球体」から出ていく水分は、1分間に両方の腎臓で125mlですから、一日で計算するとは180ℓになります。体重60㌔の人ですと48ℓしか水分がないのに、1日に180ℓ出てしまうと大変なことになります。
ですから、一旦出して、「糸球体」で出した水の99%を回収しているわけです。このくらいやらないと、ゴミって出ていかないんです。
尿の量は1日1.5ℓ前後(一升瓶一本弱)ですが、作られた尿は尿管という管を通って、一旦、膀胱にためられます。なぜ一旦貯めてから出すかというと、排尿行為は野生動物の場合などでは危険な状況なので、安全をみはらかって行うようになっています。人間の場合も垂れ流しにすると菌もつきやすく、病気にもなりやすいことから、ためておいて必要な時に出すという形をとらざるを得ないようになっています。
排尿時には、膀胱が収縮して括約筋が緩むという反応が同時に起きなければいけないので、脊髄の先の「仙髄」というところの神経が働いて「排尿反射」がおきます。反射ですから、完全に膀胱が収縮して空になるまで止まりません。空にならないで少し膀胱のなかに尿が残るというのは病気で、膀胱炎や別な理由の病気がある場合です。
暑くなって熱中症が話題に上がるようになりましたが、特にお年寄りなどは、夜、トイレに行きたくないため水分を取りたがりません。実は、日本人は尿も水分不足の傾向にあります。
ですから、こまめに水を飲んでどんどん尿を出した方がいいのです。ここで水が必要になるのですが、水分としてジュースやお茶やコーヒーを飲むと、逆に水分が足りなくなってしまうということが起きてきます。
これらの飲み物に含まれている成分をゴミとして出すために、水が必要になるためです。
ですから、普通の水を飲むのが一番です。確かにスポーツドリンクもいいのですが、それでも最近のスポーツドリンクは甘すぎたり、塩分も入りすぎたりしているため、やはり水がいいと思います。
特に、眠る前には水を飲んでいただきたく、寝ている間は6〜7時間一口も水を飲まないことになり、その上、たくさん汗をかくなどで、間違いなく水分不足になっています。途中でトイレに目が覚めるといいますが、先ほど述べたように、一晩の間に1回や2回位目は覚めるものです。
40代〜50代以上の方は、間違いなく1回は目が覚めています。その時に、膀胱にオシッコが溜まっているのに気づいて、トイレに行くことになるのです。
つまり、膀胱に尿が溜まっているから目が覚めるのではなく、目が覚めた時に、たまたま尿意をもよおしているだけなのです。1時間におよそ60ccの尿が溜まりますから、6時間寝たとすると約360ccの尿が溜まります。400cc〜500ccは軽く溜められるわけですから、この量で目が覚めることはありません。トイレに行きたくないという理由で水分を取らないのは、身体に非常によくありません。
■排便のしくみ
もうひとつ、大事なのが排便です。
大便は、極端な言い方すると、何カ月出なくても死ぬことはありません。
大便は、栄養を完全に小腸に吸収したあとに大腸を通っていく間に作られ、S字結腸のひねりが入っているところから前に溜められます。
ですから、普通は直腸には大便はなく、空になっています。腸の中には、もの凄い数の腸内細菌が住みついており、食べ物の中に入っている色々な悪い食中毒の原因となる菌や、悪いバイ菌が繁殖するのを防いで腸の環境を整えるのに非常に役立っています。有名なのは乳酸菌で、ヨーグルト等にも入っています。
通常の大便は、全体の75%が水分で、硬い大便でも50〜60%を占めます。
軟便では100%に近くなりますが、それは下痢という病気になります。普通の状態で75%が水分で、残りの25%が何かというと、ひとつは吸収されなかった栄養素で、もうひとつは皆さんご存知の「 dietary fiber(食物繊維)」です。
腸は、細胞の入れ替わりが多いのでたくさんのアカが出るので、これも入ります。さらに腸内細菌の死骸がたくさん入っています。
大便が出ないとどうなるかというと、栄養は当然吸収され、食物繊維も腸内細菌が分解できるので、腸の中に長く大便が留まると、全部分解されてオナラになります。
ですから、便秘しているとオナラが沢山出るようになりますが、これは、大便の成分もある程度出たということになります。
また、水分は当然吸収されてしまうので、どんどん小さくなっていきます。最終的にどのくらい小さくなるのかと言うと、小指の先くらいの大きさになります。「糞石(ふんせき)」と言いますが、これでおしまいです。
では、オナラを我慢したらどうなるかというと、腸の粘膜から再吸収されて血液にのって肺から排出されます。
小腸から大腸に食べ物が送られて来た時には、流動的な状態になっています。この状態から、大腸を通ってS状結腸まで来る間に、だいたい13時間くらいかかりますが、この間に、水分を吸収します。その量は2リットル近くに及び、ようやく通常の硬さの大便になるのです。下痢の状態になると大腸で水が吸収されないため数回の排便により約1〜2リットルの水分不足になります。
下痢は、トイレに行くのが大変であるとか、腹痛が問題なのではなく、脱水状態になるのが問題なのです。脱水状態になると下痢を止めるのがなかなか難しくなります。下痢がひどい時に口から水を飲んでも、吐くか下痢するかどちらかになるため、対処として、点滴して貰うしか手が無くなります。下痢が何回も続くのは極めて恐ろしい状態なので、軽く見ないでください。
最終的に便を出すしくみは、空だった直腸に大便が進入してくると直腸が膨らむので、この情報が仙髄を通って大脳に上がって来ます。これがいわゆる「便意」です。
赤ちゃんの場合は、「したいな」と思った次の瞬間に「出せ」と命令が出てしまうので、すぐに出てしまいます。これが2歳〜3歳くらいまでに大脳が発達してくると、押し留めることができるようになります。
排便は、上のほうからお腹の圧力をかけると同時に、肛門括約筋が緩んで、排便が行われます。
「排便反射」と言われ、これも一種の反射で出来ており、出始めると止められない筈です。
排便が上手く行われるためには姿勢が大事だといわれています。
背骨と大腿骨が鋭角でないと出せないのです。ここを鈍角にすると出づらくなります。
洋式の便器に座っている姿勢を横から見ると、前のめりになっているだけじゃなくて時々爪先立ちをしているはずです。
爪先立ちしていると、背骨と大腿骨の角度が更に鋭角になり、排便しやすい状態になります。
実は、排便に一番良い姿勢は痔疾のことを別にすると、和式のトイレにしゃがむ姿勢が理想的です。和式の方がお尻を突き出す形になり、肛門括約筋を両サイドに向かって引っ張る力がかかるため、肛門が開きやすくなるのです。
この「鋭角の法則」を覚えておいてほしいのですが。寝たきりのお年寄りのトイレ介助をする時に、重要な知識になります。寝たきりでは、便器を当てて脚を伸ばしたまま踏ん張って下さいといっても難しく、脚を曲げてあげるとスムーズな排便が可能になり、介護の人には、是非覚えておいて欲しいポイントです。
排便が上手くいくためには、まず、直腸が空っぽの時に大便が進入してくれれば良いわけです。
空っぽの直腸に、大便が進入するタイミングをとっている二つの反射があります。
ひとつは「胃-回腸反射」、もうひとつが「胃-大腸反射」です。
「胃-回腸反射」は、胃袋に食べ物が入ると回腸から盲腸に向かって内容物が移動するという反射です。つまり、食べ物が入って来たので、次の所に移動させようという反射です。
同じように、胃袋に物が入ると大腸が動き始めるという反射があります。これを「胃-大腸反射」といい、空っぽの胃袋に食べ物入ると大腸が動き出すという反射です。
寝ている時に胃袋は空になるはずで、翌日朝食を取り胃に食べ物が入ると「胃-大腸反射」がおこり朝食を取ると便意を催すようになります。これが大事なことで、そのためには朝は空腹でなければいけないのです。
ですから、前の日は長い睡眠が必要で、さらに、前の日の寝る寸前に物を食べてはいけないのです。つまり、「快眠、快食」ができれば「快便」になるというしくみになっています。
■「食う」「寝る」「出す」が健康の秘訣
「食う」「寝る」を上手く行わなければ、出ないということです。ですから「食う」「寝る」「出す」ということが、関連しているということが本日の3つの話の結論になり、これが健康の秘訣になります。
しかし、私も含めみんな完璧に行うのは難しいことで、それを何としても、やらなければならないというわけではなく、完璧ではないから、「上手くいかない」というふうには思わないで欲しいのです。
よく言うのですが、健康は病気じゃないことだと信じている人が殆どでしょうが、そうではないと思います。
少々、身体の調子が悪い所が少しあっても、毎日元気でいられるのなら、それは健康なのではないかと思います。
ですから、具合が悪いからそこを何とか治そうっていうことばかりに集中して、それ以外のことがおざなりになることの方が問題は大きいと思います。
病気は医者に任せていただいて、それ以外の所をきちんと「食う」「寝る」「出す」という正しい生活していただければ良いのではないかと思います。
ところが最近、これができなくなってきています。お年寄りの話をよく聞くと、「食う」「寝る」「出す」が上手くいかないということです。
なぜかというと、例えば、「食事が面倒くさいため簡単に済ませる。」「仕事が無くなると、寝る時間と起きる時間が不規則になる。」さらに、「トイレに行くのが面倒なので水分摂取を控える。」
今までの説明からいうと不摂生ですね。排便がなくてもしょうがないと・・・。死にはしませんが、このようなことを続けていたら本当に病気になってしまいます。
若々しく生きるためには、「食う」「寝る」「出す」を大事にする必要があります。
そうすれば細胞の恒常性を保つことができ、細胞の恒常性を保って元気に過ごせれば何歳になっても若々しく生きて行ける筈です。
70歳にもなる現役ロッカーのようになれとは言いませんが、こういうふうにして、最終的に、皆さんが元気になっていただきたいなと思っています。
■最後に
皆さんのご支援をいただきまして、北海新聞新聞の朝刊に(水曜日連載コラム)で載せさせていただいており、今年の秋で、丸5年になります。それがある程度まとまったので、去年の1月に、本として出させていただきました。秀和システムから全国発売しております。
また、毎日新聞(隔週で日曜日の朝刊)の連載コラムに「食う」「寝る」「出す」って書いてありますが、実は、全国版の方にも連載を書くことになりました。実は、今日のなんですけども、3回目です。
一応、「食う」「寝る」「出す」ってのは大事だって言う事を、もう一度、強調させて頂きまして終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。