生 年 月 日 | 昭和43年1月29日 | 開業年月日 | 平成16年10月6日 | 開 業 場 所 | 北広島市大曲緑ケ丘1丁目2-2 | 卒業年月日 | 平成16年3月卒 | 出 身 校 | 北海道柔道整復専門学校 |
廣中 一嗣
(札幌ブロック)
<<はじめに>>
鎖骨骨折は骨折の中でも頻度が高い骨折の一つである。
今回、鎖骨外3 分の1 での骨折。いわゆる外端部骨折で、第3 骨片を生じたものでは、保存治療においてはかなり難易度の高いケースである。
症 例
患 者 41 歳 男性(当時)
受傷年月日 平成22 年3 月2 日
受傷機序 雪道を自転車で走行中、前輪がスリップし右肩から落車。
受傷後すぐに、近所の整形外科を受診、レントゲン検査を受けられる。
主治医からは「手術しないと治るのは困難」と言われ手術を勧められるも、本人はこれを拒否、保存的治療を希望され当院に来院。
定期的にレントゲン検査を受けるということで、整骨院との併用について主治医の了承を得た。
(受傷直後の状態)鎖骨の遠位端部で斜めに骨折線がり、且つ遠位骨片はおそらく前方へ捻転転位していると思われる。その下部に第3 骨片があり、しかも、一部粉砕骨折している。
これはCraigの分類といわれるもので、Neerの分類をさらに細かく分けたものである。
この分類でいくとおそらく、今回のケースは、このタイプ5 に相当すると思われる。
今回の場合は、さらに一部粉砕している。
まずは整復であるが、一般的な座位整復法で行った。
固定は、鎖骨固定帯を用いた。
外端部骨折の場合、鎖骨バンドは逆効果だと言う文献もあるが、鎖骨骨折の場合、固定肢位の保持が難しく、肩甲帯全体の安定を保持し少しでも骨折部に外力が加わらないようにするという意味では、この方法が一番有用であると判断し、この装具を使用することにした。
この鎖骨固定帯の上からさらに近位骨片を下方向に圧迫するため、装具を付けた。
ショルダーロックホルダーと言い、本来であれば肩鎖関節脱臼などで鎖骨が浮き上がらないよう固定するためのものであるが、これを応用することを考えた。
なるべくパット部分が肩鎖関節より内側の近位骨片上にくるように当てて装着した。
これをすることによって上肢の重みで浮いた鎖骨を下方向に圧迫できる。
これだけだと、肩関節の自由度は割りと高いてめ、上肢が不用意に動くのを防止するために、さらにこの上からバストバンドを巻いて、上肢の抑制をした。
問題は就寝時であるが、上肢の重みを利用するこの「ショルダーロックホルダー」は意味がないため、これだけを外し、鎖骨バンドとバストバンドのみとした。
また、寝返り防止のために体の両側に大きめの枕を置いた状態で休むようにした。
受傷1週間後のレントゲン画像
1 週間くらいでは大した変化はない。
受傷2週間後。転位が大きくなったような感じであった。
この頃までは、来院するたび装具を外して確認した。
やはり整復位の保持には限界があり、鋭利な骨折片が今にも肩を突き破りそうな状態であった。
しかし整復をすると元通りになる、この頃はそんな繰り返しであった。
偽関節になるのではないかという心配もあったが、もう少しで骨折部が安定するので、なるべく動かないよう、励ました。
近位骨片が遠位骨片に近づいてきた。
受傷6 週間の画像
特に前回と比べ大きな変化はないが、やや真っ直ぐになってきたかなという印象である。
この頃から装具を外して確認しても、受傷2週間後の頃のような、骨片転位が無く、骨癒合が進んでいるのが分かり始めた。
約2ヶ月経過後かなり矯正されてきた受傷11週後骨癒合が進行している
最後のレントゲン
<<結果>>
追跡調査の結果、受傷してから3 年以上経過したが、今では可動域制限・肩こり等の後遺症もなく、エコーで骨折部を確認すると、形態的にほんのわずかな段差を認めるが、機能的には全く問題はない。
<<考察>>
一般的な鎖骨骨折であれば整復もそれほど難しくはないと思う、8 字帯や装具固定でも安定性は得られ、予後は良好である。
しかし、外端部の骨折においては安定的な固定保持が困難であり、観血的療法を行うのが通常である。
様々な文献でも、保存的治療では高確率で偽関節を生じると書かれてあり、ただ今回のような「一部粉砕した第三骨片」を伴う困難な症例でも、患者さまの同意を得られ、双方が精神力、忍耐力をもって治療にあたれば、機能回復は可能だと考える。