少年柔道競技者の稽古中における負傷例  相楽 徳貴(十勝ブロック)

生 年 月 日 昭和54年7月3日
開業年月日 平成22年7月3日
開 業 場 所 中川郡幕別町札内共栄町42– 5
卒業年月日 平成17年3 月12日
出 身 校 日本工学院北海道専門学校
柔道整復科
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相楽 徳貴
(十勝ブロック)

<<はじめに>>

今回、日常の臨床で遭遇した少年柔道競技者の稽古中の負傷2 症例について報告する。

<<症例1>>

14歳 男性 右組手 160cm 80kg
柔道歴 5 年 得意技:背負投、内股
3 週間前から膝関節屈伸時に右内側部に鈍痛を感じながら稽古を続けていたが、乱取で相手の大内刈りをこらえた際に右膝関節内側に強い痛みを感じ負傷。
自宅でicingし湿布を貼っていたが、症状の改善がみられないため、受傷後1週間で来院。

初検時所見

・軽度の跛行。膝関節屈伸動作時疼痛増大。
・脛骨上部内側に圧痛。熱感・腫脹軽度。
・ B体型(アンコ型)だがX脚、外反足などの身体的な特性は見られず。
・内側ハムストリングスと内転筋群に強いテンション。
・SLR right 40°(+) / left 60°(-)
・MCL stress test( +)、LCL stress test( -)、
 McMurray test( -)、前方・後方引き出しテスト(-)

処置

・micro-current(伊藤超短波AT-mini モード:CONB
出力:HIGH)通電とicingを3 日間。(熱感・腫脹の消失を確認後、超音波にて温熱療法に変更)
・大腿内側および縫工筋・内側ハムストリングスのストレッチング。キネシオテーピング固定。

経過

・ 2 週間電療およびストレッチングを続けながら稽古も行っていたため症状の改善に至らず。整形外科受診を勧め、鵞足炎との診断を受ける。
・ その後さらに3 週間電療とストレッチを継続。上半身の筋力トレーニングと打込みの受けのみを許可。
・ 1 週間後、疼痛が軽減してきたため軽く打込みを許可。
稽古後に疼痛が悪化しなかったため通常の稽古を許可。その後、再現なし。

<<症例2 >>

14歳 男性 右組手 171cm 65kg
柔道歴 7 年 得意技:払腰
3 週間ほど講道館護身術の練習で受けをしていた。右手関節へ尺屈のストレスが繰り返し加えられたことにより負傷。
初めに痛みを訴えてから1 ヶ月後に来院。

初検時所見

・右手関節尺側に腫脹と熱感を認める。
・背屈・尺屈時に強い疼痛。
・橈屈・尺屈強制で強い疼痛出現。

処置

・ micro-current(伊藤超短波AT-mini モード:CONB
出力:HIGH)通電とicingを5 日間。
・ 稽古をする際にはホワイトテープにて橈屈・尺屈を制限するように固定。
 日常はラップタイプのサポーターにて固定。

経過

・ 熱感、腫脹が軽減してきても稽古をすると腫脹が再現したためその都度icingを行った。
・ 本人の強い希望のため強固な固定ができなかったこともあり、治癒に2 か月を要した。

<<考察>>

<<症例1 >>

2 回/週間の稽古だったのを5 回/週間に増やしたことと、身長のわりに体重がある体型のため右下肢に疲労が蓄積し負傷したと考えられる。
電療とストレッチング・キネシオテーピングに稽古量のコントロールを総合的に行うことで症状の改善がみられた。
この症例に関しては、稽古量だけでなく患者の体型も下肢へ大きく影響を及ぼしたために鵞足炎を誘発したと考えられる。

<<症例2 >>

状態の好転がみられず、手関節尺側に限局した運動時痛および手関節尺屈位、前腕最大回内・回外位で疼痛が出現することから、TFCC損傷の可能性が否定できない
ため整形外科受診を勧めたが本人・家族の都合が悪く診察を受けることができなかった。
レナサームでの手関節の完全固定を提案したが、患者本人の強い希望によりラップタイプのサポーターによる固定とした。
整形外科で診察を受けられず状態を把握しきれなかったこと、患部の安静と稽古量のコントロールができなかったことが難治の理由であると考えられる。

<<まとめ>>

患者本人の疼痛の訴えの程度、 stress testによる疼痛の再現などを総合的に考慮して競技へ復帰させるが、日常生活と競技での負荷のかかり方が違うということを患者に伝えきれず、治癒までの期間が長期に及んだ症例があった。

整形外科との連携がうまくいって改善に向かった症例とそうでない症例があり、あらためて患者へのインフォームドコンセントの重要性を再認識させられる結果となった。

<<今後の課題>>

今回の症例は筆者の指導する少年団の子供たちであったため、クセや体力、性格といった部分の基本情報があらかじめあったが、他団体所属の子供が同様の症状で来院した際には稽古量のコントロールはさらに困難になる。より具体的な指導(負傷部位に負担となる技の禁止や打込み回数の制限、負傷部位に負担のかからないトレーニングの提案など)が必要となる。

ケガの防止には正しく技に入らなければならない。ケガにつながる恐れのあるクセは本人にリスクを説明し、しっかりと修正すべきである。

稽古時の体調も重要である。疲労度や調子を見誤るとパフォーマンスが低下するため、予期せぬケガにつながる。乱取よりリスクの少ない打込みや筋トレをさせるなどの別メニューを指示することも選択枝に入れておきたい。

柔道の練習の場合、人数の関係で体格差が大きい相手との練習もしなくてはならない場合も多い。自らの実力を磨くためには実力差や体重差は良き練習相手となるが、同時にケガへのリスクが高まることを忘れてはならず、指導する者はこの時に双方への声掛けは重要であり、さらにケガを防止するために注意深く見ていなくてはならない。

<<参考文献>>

臨床スポーツ医学
新版 スポーツ外傷・障害の理学診断・理学療法ガイド
エビデンスに基づく 整形外科徒手検査法