第45回北海道学術大会 札幌大会特別講演 「脳梗塞と脊髄損傷の再生医療―医師主導治験による実用化―」

講師 札幌医科大学医学部フロンティア医学研究所本望先生

神経再生医療学部門教授  本望  修先生  

 

 

 

 

 

はじめに「今日は脳梗塞や脊髄損傷など重傷な病気の後遺症に対して、再生医療という方法を用いてどの程度良くなるかお話したいと思います」と述べられ講演がスタートしました。

 

【新しい治療への挑戦】

骨髄幹細胞は、我々の身体を巡っている自然治癒力そのものではないかと考えています。身体の組織や臓器の回復などに働く再生力を備えた骨髄幹細胞、主に血液を作ることに関係する細胞ですが最近の研究では神経再生にも期待できることが分かりました。骨髄幹細胞を使った日本初の試みで、手足の麻痺や言語障害など脳梗塞の後遺症、その改善を目指す新しい挑戦です。

 

【脳梗塞】

生活習慣病のひとつと言われる脳梗塞は脳の血管の一部がつまり栄養が届かなくなった神経細胞が死んでしまう病気です。現在の主な治療は手術や薬で血管を通り易くすることとリハビリテーションなどです。身体の半身麻痺や言語障害など後遺症が残るケースが多い病気です。

 

【治療技術のしくみ】

先ず患者本人の腸骨から骨髄液を採取します。骨髄液は薬事法の衛生管理基準にのっとった細胞プロセッシング施設へ送られます。ここでは骨髄液の中にある骨髄幹細胞を取り出しておよそ2週間の培養を行う。培養して1億個ほどに増えた骨髄幹細胞をパックに封入します。その骨髄幹細胞を静脈内に1回だけ投与します。骨髄幹細胞は脳にたどり着き、失われた神経細胞の再生を促すというものです。骨髄幹細胞投与後、運動麻痺、失語症の改善がみられます。

スライド①

 

【仕組みのアドバンテージ】

骨髄幹細胞を使って神経の再生を促すという革新的な治療技術のアドバンテージとして本人自身の細胞を使えることです。自分のものを使えるということは例えば免疫拒絶反応が無いとか感染症の可能性がないということです。

 

【作用のメカニズム】

神経って本当に再生するの?ということですが、最近の研究ではそれが可能であると段々わかってきました。時系列的には細胞を静脈内投与するとまず細胞が悪いところにいって栄養因子を出します。数日以内に何らかの後遺症の改善がみられます。1週間くらいで血管新生が起こり脳梗塞や血流が低いところに対して血流が戻ってくる。その後数ヵ月~1年以上かけて神経の再生が行われていくというものです。

 

【2つのメッセージ】

1つ目は細胞治療で後遺症を軽減できる可能性がある。2つ目は急性期でなく何ヵ月たった症状に対しても神経が回復する可能性があるということ。実は我々の身体は思っている以上に再生能力があるということです。

 

【脊髄損傷】

脊髄損傷というのは若い人に多く、スポーツ外傷や交通事故などにより発症。頚椎、胸椎、腰椎の中を走っている脊髄がやられる状況です。脊損により運動麻痺、感覚障害、自律神経障害などが起こります。骨がずれている場合は外科的に修復することが現在医療の最先端と言えます。しかし骨は修復できても中を走っている脊髄がやられていると回復は中々厳しいという現状で、それに対して再生医療を行い少しでも後遺症を軽減したいというのが目的です。

 

【ニプロとの協定】

札幌医科大学と大手医薬・医療機器メーカーのニプロは脳梗塞などの後遺症の治療に使う患者自身の細胞を培養して作り出す国内初の医薬品を普及させるため協定を結びました。この医薬品は神経を修復する働きがあり間葉系幹細胞を患者自身から採取して培養して作り出す細胞医薬品と呼ばれ、患者の腕に注射して脳梗塞などで傷ついた神経を再生させるというものです。早ければ2018年頃には再生医療では国内初となる細胞医薬品の製造や販売を目指しています。

 

【オーダーメイド医療】

今までの薬というのは製薬メーカーが工場で大量生産しそれを病院に持っていき医師が処方して患者様に使用していただく枠組みでありましたが細胞治療では原材料が患者本人のものというところが従来と違うところで、オーダーメイド医療として患者本人の細胞をもらって薬を製造し病院で体に戻すという流れで実際の医療に役立てていくことになります。しかし現在細胞の培養は手動で手間がかかり効率が悪いということで様々な研究をして何とか自動化できないかと開発しているところです。脳梗塞は30万人、脊髄損傷は全国で毎年5,000人発生しています。とても機械化しないと対応できないということで研究を進め来年の秋から冬にかけて次第に世の中に広まっていくのではないかと考えております。

スライド②

 

【今後に向けて】

 この細胞が脳梗塞や脊髄損傷だけでなく蘇生後脳症やパーキンソン病、ヤコブ病、脳腫瘍といった病気にも効果があることが基礎研究で分かってきています。特に可塑性といって悪いところを再生するだけでなく残存している方も良くしようと活動が促進することで後遺症を改善する作用があるとわかっていて、最近の研究では認知症にも効果がありそうです。また、脳梗塞や脊髄損傷の慢性期の患者様も残存している神経が相当代償することがわかってきました。数年後には慢性期の患者様に対しても治療法を開発できる可能性がでてきています。

 

【最後に】

 現在やらなければならないことが数多くあり、患者数の多い疾患から治験を行って世の中に役立たせていきたいと考えております。様々な脳の病気、特に今まで治療効果がなかった難治性の病気に対しても治療法が開発できるかもしれないという段階になってきたのではないでしょうか。その中でリハビリテーションの分野が今まで以上に大事になってきます。今後再生医療が普及し、リハビリテーションの内容や期間などが見直され11つの問題がクリアになり開発研究の成果が達成されたとき、よりよい未来がそこにあると期待しています。

会場風景 

※詳しい情報は札幌医大ホームページ http://web.sapmed.ac.jp/