【第37回】肩周辺に痛みを訴えた3症例

 


 

生 年 月 日
開業年月日
開 業 場 所
卒業年月日
出 身 校 
昭和37年7月2日
平成5年8月29日
帯広市西20条南3丁目37
昭和62年3月
東北柔道専門学校

【本人談】

 日常の臨床で肩周辺の悠訴により来院する患者は少なくはないと思いますが、不適応患者であった場合の対応の仕方が重要であると考えたためこの演題にしました。


西山智之
(十勝ブロック)
 制作期間は約3ヶ月かかりました。苦労した点は、初めての症例だった為、患部を含め写真でその状態を記録しておけば良かったと思います。あとスムーズな発表が出来る様頑張りたいと思います。

 発表後の感想は、イメージ通りできて良かったがピンマイク故障の為、マイク使用に時間がかかってしまった。又、発表者も参加者も向上心を持ち北整学会がより発展するようにおねがいします。発表に際しては、学術部と詳細に打ち合わせが必要だと思います。

 

  <<はじめに>>

 我々の日常の臨床において肩周辺の愁訴で来院する患者は、幅広い年齢層で比較的多いと思われる。今回遭遇した3症例は、その臨床症状と経過の推移から要精査と判断し専門医に送ったものであり、過去の臨床の中でも初めて遭遇し、興味深い診断結果を得たので文献的考察を加えここに報告する。

「症例1」49歳 女性 パート

 主訴 右肩、上肢の痛みと痺れ。現病歴 スーパーでパートとして勤務している。2カ月前より重量物を扱う反復作業をする様になり3週間前から右肩、上肢の痛みと痺れ、脱力感が出現し仕事に差し支えるようになり来院する。既往歴、右外側上顆炎。家族歴 特記すべき事なし。

 
 初検時所見 Adoson test(+)、Morley test(+)、右鎖骨上窩に硬結を触知、Wright test(+)、Spurling test(+)、PTR(N)、握力(R26kg・L30kg)、頸の動きだけでは放散痛はない、僧帽筋の緊張は中程度であった。

「症例2」24歳 男性 土木作業員

   
 主訴 右肩甲部痛、夜間痛。現病歴 道路工事現場でスコップを使用した作業の時間が長くなった頃から右肩部に痛みを自覚し、約3週間前から右上肢が挙上しにくく、右肩甲部に「ズキズキする痛み」と右上腕部の痺れを感じるようになった。最近は就寝時にも辛く、症状が悪化したため来院する。既往歴、家族歴、特記すべき事なし。初検時所見 視診上、棘下筋の筋萎縮を認める。筋力低下(外転・外旋)、Spurling test(+)、 Adoson test(-)、 Wright test(+)、PTR(N)、大結節部の圧痛(-)、頸椎棘突起叩打痛(-)、肩関節の運動制限は有るが他動的ROMは正常。

「症例3」52歳 女性 主婦

   
 主訴 右肩部痛。現病歴 ミニバレーを週2回のペースで練習しスパイクを撃つ動作はチームの中では多い方であった。3ケ月位前の練習から右肩の痛みを覚え、スパイクで右腕を振り下ろす動作で肩が「抜ける様な感じ」で痛みを強く感じてから練習はしていない。最近右肩が上がらない。夜間痛もあり右肘周辺まで辛いという。 初検時所見 視診上三角筋、棘上筋、棘下筋の萎縮有り、大結節部・棘下筋の圧痛、関節可動域制限(外転・外旋)、Spurling test(-)、疼痛範囲である上腕骨部の触診で三角筋粗面下部に硬性の腫瘤を触知した。既往歴、家族歴、特記すべき事なし。

以上3症例は臨床症状と経過の推移から要精査と判断し早期に医療機関に送った。

<<結 果>>

 
症例1は検査の結果、頸肋の存在が認められた。上肢を反復使用する作業を誘因に頸肋により胸郭出口において神経血管束が圧迫、牽引を受けて症状が惹起されたと推測されるこの症例は本人の希望により手術せず保存療法を選択し、当院での加療を依頼された。生活環境の改善と肩甲帯の筋力強化、柔軟性の向上により愁訴は約2カ月で緩解した。

 症例2はガングリオンによる肩甲上神経の絞扼障害であった為、手術により責任病巣のガングリオン摘出を受けた。

 肩甲上神経は肩甲上切痕部分で固定され肩甲帯の動きに応じて滑動しないとされている。本症例のスコップを使用する動作は、右肩関節内転運動に伴う右肩甲骨の外転を強制する反復動作で肩甲上神経の滑動性の乏しい肩甲上切痕部分に牽引力が加わるとともに、ガングリオンによる圧迫ストレスが増強し絞扼障害を発症したものと推測される。文献によると本症の約78%がガングリオンに起因すると言われていることから、臨床症状からだけではなく画像診断による病態の把握が必要である。

 肩及び上肢の疼痛、痺れを愁訴とし末梢神経症状を呈する症例では頸髄症、頸椎症性神経根症や胸郭出口症候群等の絞扼障害との鑑別と、糖尿病などの基礎疾患や重複神経障害についても留意しなければならない。

症例3は検査の結果、上腕骨に腫瘍が認められた。
 肩関節の運動制限を呈する臨床症状からは腱板損傷、肩関節周囲炎等が推察されるところであるが、上腕骨部分に腫瘤を触知した為に、主訴及び運動制限との関連は不明であったが早期に精査に送った結果、上腕骨腫瘍と診断された症例である。

<<考 察>>

 現在、我々柔道整復師を取り巻く環境は正に逆風の時代の真只中であり、患者の獲得は生活の安定に直結する問題である。

 しかしながら医療過誤というリスク管理の面からも疑わしき患者は早期に医療機関に送り精査を受けさせるということは必須であると考える。患者がその愁訴に起因すると考えられる様な原因を訴えて来院した場合でも過去の経験や先入観に捕らわれず、その対応の仕方が重要である。不適応な疾患、傷病を除外するためにエピソードの聴取、症状と経過の推移から見極めて判断しなければならない。

 特に患者から明確な「負傷した原因」を聴取していても症状が改善せず進行性で悪化して行くものや自発痛が主体で安静時にも疼痛が軽減しないものは要注意である。不適応な疾患、傷病を全て正しく鑑別することは困難であるが、見逃し、見落とし、手遅れとなる事の無い様、リスク管理の面からも医師との協調がとれる環境を築き、症状の変化に応じて修正して行く流動的対応が必要である。

<<まとめ>>

不適応な疾患、傷病を鑑別し病態を把握するうえで問診、視診、触診、徒手検査の重要性を再認識した。我々の技術、知識を超える症例に遭遇した際にはその対応の仕方が重要である。精査すべきものは早い段階で専門医に委ねる医接連携と信頼関係の構築を強化しなければならない。

  <<参考文献>>