高齢者における膝関節捻挫とその治療法

 

生 年 月 日
開業年月日
開 業 場 所
卒業年月日
出 身 校 
昭和24年12月27日生
昭和63年10月5日
登別市新生町3丁目21-4
昭和50年3月卒
北海道柔道整復専門学校

 


細川 純也
(日胆ブロック)

 

  <<はじめに>>

 近年、少子高齢化に伴って、来院する患者さんの年齢層も徐々に高くなりつつある現在高齢者の受傷は、若年者のようにスポーツ等の激しい行動や動作によって起こることよりも、家庭内外等の日常生活の諸動作の中で、比較的弱い外力によって起こることが多い。受傷以前に何らかの症状が既存することも考えられ、骨、関節、靭帯、筋肉、腱や筋の損傷等が伴い、それが基にあるため負傷の確立及び頻度が高いと考えられる。

 今回、高齢の患者さんで、損傷を伴った膝関節捻挫の機能回復を図るため、運動療法及びストレッチを行った結果、より良い結果が得られたのでここに報告する。

<<方 法>>

運動療法

 この運動療法は、大腿四頭筋及び下腿三頭筋など下肢の筋力強化と持久力、耐久力の改善、膝関節可動域の拡大を目標にプログラムしてみた。

1.等尺運動


 筋肉が収縮した際に張力は増すが、筋肉の長さは変わらず関節運動を起こさない運動。

1. 患者さんをベッドの上に座らせ下肢は伸展の状態で、足関節は屈曲させ腓腹筋、ヒラメ筋を最大収縮させる。

3~5秒間収縮後、3~5秒間休息を取り、5回を3セット行う。
(慣れてきたらセット数を増やす。5セットから10セット。)  
  

2. 1.と同じく、下肢は伸展の状態で、膝関節裏側にタオルを二つ折りにし、軽く膝裏で押すように指示、大腿四頭筋を緊張させ最大収縮させる。

3~5秒間収縮後、3~5秒間休息を取り、5回を3セット行う。
(慣れてきたらと同じセット数。)
  

3. 背臥位にし下肢は伸展のまま床より10センチ~15センチ程度上げ、腸腰筋群を最大収縮させる。

その状態で3~5秒間保持する。その後降下し3~5秒間休憩。
これを5回、3セット行う。(慣れてきたらと同じセット数。)
 

2.等張運動

 筋肉に掛かる負荷に対して、これに打ち勝つ継続的な張力を発揮し、関節運動が起こる運動である。筋肉の短縮性収縮と伸張性収縮を利用した運動。

1. 患者さんを椅子又はベッド上に座らせ、膝は直角に曲げ下垂した状態で、この時、股関節は直角位を取らなくても良い。

自重(自分の足の重さ)から足首に徐々にウエイト(1~1.5キログラム)を付け、膝を伸展させ、3~5秒間静止させる。再び3~5秒間かけて最初に戻す。
これを5回、3セット、持久力が付いてきたら5セットから10セットに増やす。
  

注意点

過度の負荷をかけない。
早々にセット数を増やさない。
年齢及び患者さんの状態を観察・把握し、秒数、回数、ウエイト量を考慮する。
腫脹、疼痛等の症状が出た場合は、ただちに運動を中止し、症状が緩和してから再開する。

ストレッチ(疲労回復とケガの予防)

 

(1)   患者さんを背臥位にし、患側の骨盤を片方の手で固定し、膝関節を伸展させたまま徐々に股関節を屈曲して、大腿二頭筋などのストレッチを行う。

最終目標は90度程度だが、高齢者と言うことを考慮し徐々に行うことが大事である。
疼痛が伴うときは直ちに中止する。

(2)  患者さんを腹臥位にし、臀部を固定し、足関節を持ち90度位に近づけるように屈曲して、大腿四頭筋などのストレッチを行う。

最終目標は120度位。これも上記のように年齢を考慮し徐々に行うことが大事である。
疼痛が伴うときは直ちに中止する。  

<<症 例>>

症例1 右膝関節捻挫(69歳:女性)

原  因: 除雪中、足を滑らせ負傷
既存症状: 正座痛、歩行痛
症  状: 歩行痛+ 疼痛+ 腫脹+
圧痛++ 階段の上昇時痛+
階段の降下時痛+++
経  過: 内側側副部に圧痛があり、外転ストレステストでも疼痛あり。膝関節をやや屈曲させ、左右の動揺を防ぐため伸縮テープを用いて固定する。その上より冷湿布を施し、伸縮包帯にて固定。電機療法、アイシング、手技療法を行い、約2週間後、腫脹、疼痛が緩和したため運動療法を開始。

等尺運動及びストレッチ開始後、1週間で膝関節が腹臥位にて約45度まで屈曲可能となり、(自力)等張運動を開始。ウエイトは0から始め徐々に付加を加え約1キロ位まで増加した。

加療開始6週間目、歩行痛も緩和し、経過良好にて治癒。施術終了時は筋力低下を防ぐため家庭内においても歩行を中心とした運動療法の継続を指示した。

症例2 左膝関節捻挫(73歳:女性)

原  因: 買い物帰り、雪道にて滑り負傷
既存症状: 正座痛、歩行痛、やや外反膝
症  状: 歩行痛++ 疼痛+ 腫脹+++
圧痛++ 可動域10度~20度
経  過: 外反膝、大腿四頭筋の筋力低下、腫脹が著しく、ほぼ膝全域に亘り圧痛があった。症例1と同様に膝関節に伸縮テープを用いて、冷湿布を施し伸縮包帯と硬性のサポーターにて固定。

2週間後に腫脹が減少したので伸縮包帯をはずし、等尺運動を開始した。

4週間目には腫脹、疼痛もなくなり、等張運動を開始した。

5週間目経過良好にて治癒。
症例1と同様に歩行を中心とした家庭内での運動療法を指示した。

<<考 察>>

 高齢者の膝関節捻挫の既往症として、変形性関節症を伴う場合が多々ある。私が扱った高齢者の膝関節捻挫の内訳で変形を伴ったものは、平成21年だけで60人中、男女比1対5で女性の負傷が高頻度であった。

 これは、退行性病変が認められ、関節に慢性的に退行性変化と増殖性変化とが同時に起こり、関節内の形態が変化するものであると考えられる。以上の事から、運動療法とストレッチを行う事により早期回復が行えた。

<<まとめ>>

 高齢者における膝関節捻挫は日常生活において制限を受ける事も多くなりがちである。運動療法、テーピング固定、ストレッチ等の施術療法を行う事で早期回復を図る事が出来たが、家庭内での運動の継続等で、今後、高齢者の負傷頻度の減少も期待できる

  ≪参考文献≫

  スポーツ外傷 中嶋寛之 編著