第48回北海道学術大会 特別講演 「近年の災害医療活動」

 

近藤先生
国立病院機構災害医療センター副災害医療部長
厚生労働省DMAT事務局次長  近藤 久禎先生

 

 

災害医療対応を自らの体験を踏まえ、その活動の成果や課題について説明されました。

 

 

【北海道胆振東部地震でのDMATの活動】
DMAT(災害急性期に活動できる医療チーム)の活動として医療県別EMIS(広域災害救急医療情報システム)入力率、地震事例およびクロノロによる物資要請、EMISに追加すべき項目、災害時の燃料供給体制の確保、札幌・胆振日高活動拠点本部下での搬送、食料(病院食)の手配、計画停電への対応。

活動の成果として道内全域をカバーし各本部にDMATロジチームを派遣し機能向上を図れた/EMISを用いて各活動拠点本部からの情報を集約、情報の精錬した/電気(自家発電の燃料補給、電源車の派遣)、水(給水)、食料の手配、DMAT車両などを用いた患者搬送により停電による入院患者の死亡を防ぐことができた。課題として停電地域から札幌・胆振へのチーム派遣・ロジチームの更なる早期投入/保健所派遣、EMISの入力項目が補給を行う上で不十分/国・道・市町村の各レベルで情報収集・補給が行われ重複した/北海道への更に大規模なDMAT投入を行う場合の海・空路の確保/冬季におけるDMAT投入の課題の検証が必要。

 

【東日本大震災におけるDMATの活動】
DMATの活動概要、被災1日後におけるEMIS入力状況、花巻SCU(広域搬送拠点臨時医療施設)活動、ドクターヘリの活動、石巻地域病院避難。DMAT活動のまとめとして1800名をこえる人員が迅速に参集し活動した/国・県庁から現場までの指揮系統を確立した/急性期の情報システムは機能した/広域医療搬送を実施した/急性期(外傷)のニーズは少なかった/病院入院患者避難のニーズがあった。

東日本大震災対応:今後の課題として指揮調整機能の更なる強化/病院被害情報スクリーニング(EMIS)/被災地内でインターネットを含む通信体制の確保/広域医療搬送戦略の見直し/亜急性期活動戦略の確立/DMAT全体としてのロジスティックサポートの充実。

 

【体験を踏まえての教訓】
教訓1:県庁の対策本部はごった返して混乱していた/混乱から多少離れていても(1つ上の階)ある程度のスペースを確保し、問題解決機能を構築することも重要であると心得よ/但し、主に指揮系統の確立期に二重の指揮系統になる危険性はある。教訓2:「善く戦う者は、人を致して致されず」として主導権の確保、不確実な状況下であるからこそ積極的に動き、状況を把握しながら活動する必要はある/先を読んで迅速に先手、先手が打てれば主導権が確保されオペレーションは成功する。教訓3:「愚者は成事に暗く、智者は未萌に見る」として情報のかけらを手に入れていながら生かすことができず現場へ負担を押し付けた形となった/本部要員、統括DMATたるもの情報のかけらを逃すことがないように心得よ/情報のかけらしか手に入れられなかった。教訓4:「疲れ切った軍団と師団以上に疲労困憊した軍団長、師団長がいる。そして疲労が全軍を臆病にする」としては労とタフネス、疲労の中に想定外の連続、勢いを保つためにはタフな本部が必要。

 

【東日本大震災は想定外の災害であったか?】
津波の疾病構造-インド洋津波/長く続く急性期-パキスタン地震・ハイチ地震/情報の混乱、通信不通地域-阪神淡路大震災、全ての災害/亜急性期初期、後期における救護班の不足-GAP問題:全世界の災害の問題/DMAT隊員の救護班としての活動-新潟中越沖地震、岩手宮城地震他/病院避難のオペレーション-宮城連続地震/医療班の公衆衛生的活動-JMTDR他国際緊急援助の事例を挙げ、更に大きな災害はまた来る南海トラフに対応するためには事例の蓄積が必要であると説明。

 

【熊本地震におけるDMATの活動】
今回の医療活動として全国から約2000名のDMATが参集し、EMISによる情報収集に基づき、効果的な病院への物資支援に加え1400名を超える病院避難搬送を行い搬送途上の死亡は防ぐことができた/急性期から指揮系統を立ち上げ、亜急性期まで継ぎ目なく連続させることができた/亜急性期において様々な保健医療福祉にかかわる支援チームの調整体制が県・二次医療圏・市町村のレベルで確立できた/保健医療救護の視点より避難所の生活環境の改善が図られた。

熊本地震の課題として指揮系統の課題/災害時病院対応の標準化と周知/安全管理・安否確認の標準化/公衆衛生・福祉分野との連携/早期からの車内泊対策が必要。

 

【西日本豪雨災害】
今回の災害の本質として広島県は多発土砂災害・ライフライン(特に水)の広域破損、岡山県は倉敷市における洪水であった。DMAT活動の課題として広島では前回の土砂災害のイメージで活動/広域なインフラ破損への対応が遅れた/活動拠点本部で情報収集活動を行うためにはDMATロジチームの支援および早期派遣が必要。岡山ではDMAT調整本部の立ち上げ、DMAT要請が遅れた/病院避難のオペレーションを夜に計画し夜明けとともに実施しなかった/病院避難初動期は医療の絡まない搬送となった/搬送した患者のトラッキングができなかった/病院避難活動が夜にかかった/常総水害の反省が全く生かされなかった。

 

【近年の災害対応の課題】
課題として災害の本質を見抜く目/籠城支援の課題/ハザードマップを活用/亜急性期体制の確立/教訓の適切な活用が必要。

 

【災害時に課題となる疾患と柔道整復師への期待】
主に災害による直接の被害(外傷、熱傷、クラッシュ症候群)/医療継続が課題(透析、糖尿病、高血圧、妊婦・新生児等)/避難所等の生活環境が課題(肺炎、DVT、感染症、熱中症等)/精神関係(PTSD対策、被災者への心のケア、支援者への心のケア)。外傷を中心とした幅広い分野への柔道整復師の貢献が期待される。

 

最後に「連合艦隊解散之辞」(聯合艦隊司令長官東郷平八郎)より、我々の活動は少しは成功したと思っているが、成功に満足して治平に案ずると次は必ず失敗するとして「教訓の周知と不断の改善が大切である」と述べられ講演が終了となりました。

 

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