<<はじめに>>
肘関節を負傷して来院した患者さんの中で、腫脹が引いてきたにもかかわらず、屈曲あるいは伸展の関節可動域の制限が残る方がいます。
肘関節は、上腕骨、尺骨、橈骨の3つの複合関節で成り立っています。
肘関節の屈曲伸展は主に腕尺関節が中心となりますが、屈曲あるいは伸展時に関節の軌道が正常でないと、屈曲時に尺骨の鈎状突起が上腕骨の鈎突窩に入り込まない。もしくは橈骨の橈骨小頭が、上腕骨の橈骨頭窩にうまく入り込まないことになり、引っかかったような、可動制限が起きてしまいます。
伸展時も同じで尺骨の肘頭が、上腕骨の肘頭窩にうまく入り込まないと伸展時に完全伸展ができなくなります。
関節運動の軌道の正常化と関節自体の遊びも関節の可動域を変える一つと考え、分度器を使い計測し、前額面で上腕と前腕との中心軸の角度を計測できるようにするのと、中心軸上のポイントまで持って行けば、誤差をなるべく少なくできると考え、関節の運動方法と、計測の方法を発表したいと思います。
<<方 法>>
肘関節の屈伸時に可動制限のある患者さんに、健側、患側の肘関節の屈曲伸展の角度と、肘関節伸展時の前額面の上腕と前腕の長軸上の角度を測ります。
上腕側は肩峰端の所にポイントを置きます。肘関節は外側上顆と内側上顆の間の中心点。前腕は橈骨茎状突起と尺骨茎状突起の中心点に置きます。上腕と前腕の長軸上の通常角度は、5度から10度、橈側に外反していて、健側、患側、両方測ることにより、外反の角度に異常があれば、健側に合わせるように軌道を持って行くように患側の関節に運動をつけていきます。
測る分度器は、自分で工夫したもので、測定用の角度計でも長軸の長さが足りないと、目測で持っていかないとなりませんが、ひもとゴムを使った角度計は目標のポイントまで持っていくことができ、計測できるので、誤差をなるべく少なくできると考えて考案しました。
ポイントは、外反の角度で、上腕の長軸と、前腕の長軸が通常5度から10度外反していて角度も個人差があります。健側と比べて患側の角度が違えば、正常な軌道を描いていないと考え、伸展時の健側と同じ角度に近づけるように関節に遊びをつけるように持っていきます。
方法は、患側の方の前腕を術者の腋下に挟み、術者の両手を使い、手掌部を患者の肘関節部を把握し関節の正常の方に持って行けるように、伸展して側方に左右に軽く動揺させるようにしながら遊びのない関節に遊びを付けていき、健側の角度に近いように持っていきます。
外反角度が改善され、可動域が拡大されれば関節の軌道が修正されたと確認されます
<<症 例>>
35歳 男性
原 因: |
仕事で一輪車の上に土を乗せ運んでいて、土を捨てるため一輪車を傾けた時右肘関節を捻り負傷する。 |
初診時: |
負傷して某病院にてレントゲン検査をし、骨に異常がなく湿布を施していたが、可動制限かあり、約1ヶ月後、当院に来院。 |
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患側、右肘関節
屈曲―63° 伸展―142° 前額面伸展時の角度―橈側7°
健側、左肘関節
屈曲―27° 伸展―187° 前額面伸展時の角度―橈側9°
右肘関節、伸展時に運動を付ける。
屈曲―53° 伸展―163° 前額面伸展時の角度―橈側8° |
<<結 果>>
関節内運動での運動を運動痛なく細かく動かして遊びを付けてあげることにより、前額面の伸展時の角度が、健側に近づけることができ、屈曲伸展の可動域も拡大され、日常生活の気になる動作の一部が改善された。
自作の角度計で、計測時に、上腕部の上端のポイントを肩峰端に持っていくことにより動かないポイントを使うため、計測の誤差が少なく計測できた。
<<総 括>>
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軌道の少しのずれも屈伸の可動域に影響を与え、関節に遊びの余裕をなくしていまい、可動域の制限をおこしてしまう。 |
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動揺痛を起こさない程度の細かな運動でも、関節に遊びを付けてあげることにより可動域の改善がみられる。 |
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患者さんの目の前で数値を示してあげることで、患者側の安心感と、術者自身も方向性の確信もとれると思われる。 |
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